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世界の果実

世界樹で暮らす人々がいる。

彼らは世界樹の枝から実る世界を収穫し、星として育てる役割を持つのだ。

果実はツルツルとして、光にかざすと中を覗くことができる。

大抵の場合、何も見えないけど、稀に魔法で龍に立ち向かう人とか、高くそびえ立つ機械の街が見えたりする。

私はいろいろな世界を見るのが好きで、実を収穫するときは毎回夜に寝ることができなくなる。まだ子どもだからお手伝いしかできないけど、いつか果実を育ててみたいな、なんて思ったりする。

今日は収穫の日。私は大人たちの間を追いかけて、枝の上を渡り歩いていく。世界樹はザラザラしていて、歩くのは簡単。

だけど、たまに苔が生えているから間違って踏んで落ちないようにしないといけない。

果実は少しだけ光る性質があるので、夜に収穫する。世界樹の果実がキラキラと輝いているが、星のようで枝の上は暗いままだ。なので、特に足元は気をつけて見る必要がある。

するとふと、足元の枝のすぐとなりに輝いていない果実を見つけた。灰色で少し濁っているようだった。

今まで輝いている果実しか見たことがない。これはどんな世界なんだろう。

私はその果実を手に取り、世界樹からもぎ取った。少し力を加えるだけでぷちっと果実は取れ、片手の中に収まった。

早速、手に持っていたランタンにかざしてみる。

「あれ、何も見えない......」

世界は真っ暗だった。見えないことはよくあるけど、真っ暗というのも初めてだった。

少しだけランタンの光を強くして、もう一度だけ覗いてみる。すると、真っ暗だと思った世界は、暗い雲が見えていただけだった。

しばらく眺めていると、雲間から世界が見えるようになった。中に人がいるのが見える。だけど、なぜか泣いているように見えた。

よく見てみるとその人はボロボロのローブを着ていて、手の中には小さな女の子がいた。世界には雪が降り注いでいて、他に人の姿は見えない。

崩れかけの建物に、大きな地面の穴。他の世界と違ってあまりワクワクしなかった。

ボロボロのローブの人も、眠そうにうつむいている。どうしてこんな事になったのだろう。

私も少し悲しい気持ちになった。果実をもう少しだけ覗いてみる。

ボロボロのローブを着た人がなにか言っている。空に向かって祈りを捧げているようだった。

そうして、その人も雪に埋もれて動かなくなってしまった。

私はしばらくその場から動けなかった。今まで見てきた世界でも似たようなことはあった。だけど、最後にはみんなが笑ってる世界だった。

「見つけてしまったかな。それは、まだ早い。さぁこちらへ」

急に声をかけられたので、足を滑らせランタンを蹴飛ばし落としてしまった。後ろには一緒に収穫に来た大人が立っていた。優しい瞳、すべてを見ているかのようで、世界樹の果実の光を受けて輝いている。

「この果実はどうするの?」

「私たちが大切に育てる。世界を枯らしてしまうわけにはいかないからね。」

私は黙り込んでしまった。ローブの人と、少女の姿が浮かぶ。

「さぁ。早く」

大人は私に手を差し出し、灰色の果実を取ろうとした。

「......。」

私は枝の上から立ち上がる。ふと視線を落とすと、枝の上に苔が生えているのを見つけた。

私は一歩踏み出し、苔の上に足を乗せた。ぬるっとした感触のあと、私の足は枝の隙間へ落ちようとする。

その拍子に、手に持っていた灰色の果実が指からこぼれ落ちてしまった。灰色の果実は鮮やかに輝く世界の果実の隙間を抜けて、暗闇へと落ちていった。

「大丈夫かい?」

大人の手が優しく私を枝の上に引き戻す。

「果実を落としちゃった」

「あぁ、それなら仕方ない。次の果実を探しておいで」

大人は少し残念そうに枝の隙間から下を見下ろしたが、私にランタンを手渡すとすぐに次の収穫へ向かってしまった。

私は、足の裏にへばりついた苔を手で払い除けた。

あの世界は、誰にも見つからないだろうか。

あたりを見渡し、次の果実を探しに歩き始める。枝葉の隙間から吹く風は少し冷たかった。

空からは無数の星が私を見下ろしている。次はどんな世界が待っているのだろうか。